不動産クラウドファンディングの契約形態には、大きく分けて「匿名組合型」と「任意組合型」の2つがあり、得られる権利や責任の範囲などが異なります。今回は、それぞれの契約方法の特徴とメリット・デメリットを解説していきます。
不動産クラウドファンディングの概要
不動産クラウドファンディングは、事業者がインターネットを通じて多くの投資家から資金を集め、購入した不動産の賃料収入や売却益を投資家へ分配する新しい形の不動産投資です。
不動産クラウドファンディングは、不動産特定共同事業法(通称「不特法(ふとくほう)」)に基づき、国土交通大臣または都道府県知事から許可された事業者のみによって運営されています。
不特法(事業)の契約形態は、「匿名組合型」「任意組合型」「賃貸借型」に分かれており、不動産クラウドファンディングでは、「匿名組合型と「任意組合型」の2つが採用されています。
両者の主な違いは、投資家と事業者が事業の運営にどのように関与し、利益分配に関してどのような権利義務関係にあるかという点にあります。
「匿名組合型」とは?
匿名組合型とは、「当事者の一方が相手方の営業のために出資をし、その営業から生ずる利益を分配することを約することによって、その効力を生ずる」契約(匿名組合契約)に基づく事業形態のことで、商法により規定されています。
この契約は事業者と投資家の2者間で締結する契約で、インターネットを通じて投資家から出資を受けた事業者が、集めた資金で不動産を購入して運用し、賃料収入や売却益を投資家に分配する仕組みです。
少額から投資ができるため、投資家が参入しやすいというメリットがあり、不動産クラウドファンディングでは、匿名組合型のファンドが多くなっています。
匿名組合型では、出資者は不動産の所有権を持たないため、物件の運用や管理にも関与しないことが特徴で、得られた分配金の所得区分は「雑所得」となります。
また、ファンドの運用期間は6か月〜24か月程度と、比較的短いものが多くなっています。
メリット ○
・少額から投資ができる
通常、不動産投資を始めるためには物件を購入する必要があり、初期費用は最低でも数百万円から、物件によっては1億を超える場合もあります。
また、最近は、低金利の影響や建築コスト(資材や人件費)の高騰により不動産価格が上昇しており、不動産投資を始めてみたくても、資金的な問題から断念する人も少なくありません。
一方、匿名組合型の不動産クラウドファンディングは、一口1万円程度のファンドも多く、少額から不動産投資ができるというメリットがあります。
・運用期間が短い分、リスクが抑えられる
匿名組合型のファンドは、投資家が物件を保有せず登記などの手続きも不要であることから、任意組合型に比べ運用期間が短い特徴があります。
一般的に、全ての投資では想定外の事態が起こる可能性があり、運用期間が長くなるほどこのリスクは大きくなるとされていますが、短期間の運用であれば、不測の事態が起こるリスクを抑えることができ、資金計画が立てやすいというメリットもあります。
・投資家を守る仕組みがある
事業者やファンドによっては、「優先劣後構造」が採用されている場合があります。
優先劣後構造とは、投資家と一緒に事業者もファンドに出資を行い(投資家の出資金を優先出資、事業者の出資金を劣後出資とし)、運用による損失が生じた場合には先に事業者の出資金から負担することで、劣後出資の割合までは投資家の出資元本が毀損しないという仕組みです。
そのため、劣後出資比率が低い場合は元本が毀損する場合もありますが、この仕組みを採用しているファンドは、元本の安全性が高いと考えることができます。
・出資額を超える損失は無い
匿名組合型では、契約(ファンドの運用)が終了した場合、事業者は投資家に出資価額を返金する義務があり、投資家は出資額の範囲内でのみ責任を負うことになります(有限責任)。つまり、投資家が出資額を超えて損失を負担することはありません。
デメリット ×
匿名組合型のファンドは、少額から投資ができる一方で、申込上限額が決まっている場合も多く、現物不動産投資のように高額の出資により大きなリターンを望む投資家にとっては、その点がデメリットとなり得ます。
また、比較的短期間で運用が終了し出資金が返還されるため、投資を継続したい場合には、新たな投資先の選定など諸々の準備をしなくてはならず、良い案件がない時や、申込しても投資が確定しなかった場合などに機会損失となるケースもあります。
「任意組合型」とは?
任意組合型とは、「複数の当事者(個人・法人問わない)が出資をして、特定の事業を共同で運営することを目的とする」契約(任意組合契約)に基づく事業形態のことで、民法により規定されています。
任意組合型では、事業者を含めた全投資家が一つの組合契約を結んで出資を行い、不動産を共同で所有・運用し、この運用から得られた賃料収入や売却益を投資家に分配する仕組みです。
ただし、実務的には事業者が業務執行者となって不動産取引を行い、投資家は分配金の支払いを受ける側である場合が多くなっています。
任意組合型では、投資家は物件の所有者の一人となるため、賃料収入も出資割合に応じた金額が得られることが特徴で、その分配金の所得区分は「不動産所得」となります。
また、ファンドの運用期間は36か月以上のものが多く、匿名組合型に比べ、長期で設定されている場合が多くあります。
メリット ○
・大きなリターンも期待できる
匿名組合型に比べ、高額の出資が可能な任意組合型では、その出資額に応じた大きなリターンが期待できます。
また、事業者やファンドによっては、想定以上の金額で物件を売却できた場合、その利益が投資家に還元される場合もあります。
・節税対策になる
任意組合型では、現物不動産を保有している場合と同様の税制が適用され、相続税評価額が実際の売買価格(時価)より低くなるため、相続税や贈与税を抑える節税効果が見込めます。
デメリット ×
任意組合型では、投資家が不動産の所有権を有するため、所有者としての責任とリスクが生じます。
例えば、投資した物件の運用で損失が出たり、地震や火事などで物件が被害を受け多額の修繕費がかかったりした場合、投資家がそれらを負担することがあります。
また、その債務に対する責任は無限であるため、出資額を超える損失を負担する場合もあることには十分注意が必要です。
今回は、不動産クラウドファンディングの「匿名組合型」と「任意組合型」について解説いたしました。それぞれの特徴とメリット・デメリットを正確に理解することで、投資の幅を広げることができます。不動産クラウドファンディングに出資経験がない、または慣れていない方には、まずは匿名組合型のファンドに投資することをおすすめします。少額から投資し、仕組みやお金の流れが把握できたら、任意組合型を検討してみてはいかがでしょうか。