最近、BCPというワードを見聞きすることが多くなりました。特に、自然災害の発生リスクが高い日本では、昨今、BCP策定の重要性が叫ばれています。今回は、BCPの基礎知識と企業にとってのメリット、株価への影響などについて解説していきます。
BCPとは?
BCPとは、“Business Continuity Plan”(事業継続計画)の頭文字を取った言葉で、企業が災害などの緊急事態に遭遇した場合に備え、事業活動を継続するための方法や手段などを定めた計画のことです。
BCPの主な目的は、緊急時の被害や損害を最小限に抑え、事業の継続や早期復旧を図ることにありますが、BCPの策定により組織の全体像が把握でき、備えるべきリスクやとるべき手段が明確となるため、特にライフラインに関わる企業にとってはBCPの策定が必要不可欠となってきています。
BCPが活用された事例とは?
昨今、緊急事態に対するリスク管理方法や経営戦略の一つとして、BCPを導入する企業は世界的に増加していますが、日本でBCPへの関心が高まったのは、2011年の東日本大震災がきっかけでした。
その後、平成30年7月豪雨をはじめとする水害や新型コロナウイルス感染症の流行、令和6年能登半島地震など、企業活動に直接的なダメージを与える危機的事象が発生する度、その必要性が再認識され、取り組みが強化されてきました。
実際の活用事例として、新型コロナウイルス感染症拡大時には、多くの企業がBCPの一環としてテレワークを導入しました。
テレワークの導入は、感染症の対策となるだけでなく、他の非常事態発生時にも自宅などの離れた場所から効率的に仕事を行うことを可能とした例です。
令和6年能登半島地震の際は、イオンが被災地にある自社スーパーで、地震発生の翌日から営業を順次再開すると発表しました。
これは、イオンの策定したBCPが、災害発生時の状況を細かく想定した実効性の高いものであったことを表しており、ライフラインに関連する企業として、社会的な信頼を高めることに繋がった例です。
BCP策定のメリット
企業がBCPを採用する目的やメリットの一つめに、事業継続性の確保が挙げられます。
災害や予期せぬ事態が発生した場合でも、どのように回復すべきかを明確に定義したBCPを持つことで、即座に行動に移すことができるため、事業の中断を最小限に抑えることができます。
よって、BCPは企業の持続性を高めるために有効かつ重要な施策であると考えられています。
また、BCPは単にリスク管理能力の向上だけでなく、組織力や経営力の強化にも役立ちます。
BCPを策定する過程では、緊急時に何を最優先で復旧・継続させるか、自社の根幹となる事業は何かを考える必要があるため、自社の強みや弱みが把握でき、特定のリスクに対して予防策を講じたり、経営戦略に反映することができるためです。
更に、緊急時にも安定して事業活動を継続できる強い会社であることは、顧客や取引先のみならず、従業員や株主などからの信頼や評価、ひいては、企業の価値や競争力の向上にも繋がります。
このように、BCPは有事の際の早期復旧だけでなく、経営基盤や組織体制の強化、信頼性や企業イメージの向上など様々なメリットをもたらし、事業の存続のために不可欠な計画であると言えます。
BCPの策定・開示が株価へ与える影響
事業の安定性・継続性を担保するための取り組み(リスク管理)がしっかりとなされている企業は、市場で評価される傾向があります。
そのため、BCP策定の有無や対策の内容が、企業の株主価値や市場評価に直接影響することも少なくありません。
例えば、投資家は、事業の継続に支障を来す可能性のあるリスクを、企業がどれだけ細かく把握し、具体的な対策を練っているかを重視するため、BCPの策定や開示を適切に行っている企業は、投資家からの信頼を得やすく、株価にもプラスの影響を与えることが多くあります。
また、実際に緊急事態が発生した際に、策定したBCPを基にスムーズな対応を行うことができれば、市場における信頼性が向上し、株価の安定に繋がる可能性があります。
そのため、投資家は、過去の緊急事態発生時における企業のBCPの成功・失敗例や、現在の取り組み状況をみれば、株価への影響を理解することができます。
例えば、平常時から十分なBCP対策を行い、災害時にそれを活用できた企業は、市場からの信頼を集め、株価の急落を防げることが多く、反対に、BCPの不備が露呈された場合、株価の低下に繋がることがあります。
BCPのデメリットと課題
BCPの策定にあたっては、いくつかのデメリットや課題も存在します。
まず、BCPの構築には時間や人件費などのコストがかかります。
しかし、これらは直接的な利益を生まないコストであるため、特に中小企業などのリソースが限られている企業にとってはそれがネックとなり、ハードルが高く感じられる場合があります。
また、実効性のあるBCPを維持するためには、社会環境の変化や社内体制の変更に応じて内容を定期的に見直したり、研修や訓練の実施により、組織全体に方針や手順の浸透・定着を図る必要がありますが、それには追加のリソースだけでなく、経営層(管理・運営側)の熱心な取り組みが必要となるため、容易でないことは明白です。
そのため、BCPの策定にあたっては、まずは予算や人材を適切に割り当てることが重要と言えます。
また、過去の災害対応やBCP事例を基に成功・失敗の要因を分析し、BCPの策定や実行に役立てることも大切です。
例えば、成功事例では、日頃から実践的な訓練を基に適宜BCPの見直しが行われていた(PDCAがうまくまわっていた)ケースが多く、失敗事例では、策定時点での誤ったリスク評価や初動体制の構築が不十分であった点が問題となりました。
BCPの将来展望
近年は、デジタル技術が急速に進歩しており、人工知能(AI)などのテクノロジーの発展がBCPに新たな手段を提供していく可能性があります。
例えば、AIの優れたデータ分析能力や予測精度は、リアルタイムでの災害予測や、企業のビジネス上の問題点や潜在リスクの識別に役に立ち、BCPの作成から実行までのプロセスをこれまでより迅速かつ効率的に行うことを可能とするでしょう。
一方で、気候変動やサイバー攻撃など、従来とは異なる形で事業に影響を及ぼす可能性のあるリスクも表面化してきており、BCPはより多くのシミュレーションが必要となるかもしれません。
企業はこれらの変化に適応するため、BCPを定期的に見直し、「想定外」を少しでも減らす努力が今後必要となりますが、BCPの取り組みを強化することで、組織全体のリスク管理能力が向上していくと期待されます。
今後は、企業や組織がBCPの重要性をより強く認識し、継続的な運用・改善に取り組むことが重要と言えるでしょう。
今回は、BCPの基礎知識と策定のメリット、企業の株価への影響などについて解説いたしました。BCPは、将来の不確実性に備えるための手段として、企業の生き残りに不可欠な戦略であり、ますます重要視されていくと予想されます。特に、災害大国と呼ばれるほど災害リスクの高い日本では、企業全体の課題として取り組む必要性が出てくるでしょう。