「ESG」とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取って作られた言葉で、 最近はこの三つの観点から企業を分析して投資する「ESG投資」が注目されています。
投資家が投資先を選定する際にも、地球環境を考え、より良い社会を目指していく動きが広がっています。今回はESG投資を解説し、投資と社会性という観点で考えていきたいと思います。
<ESG投資の拡大>
最近は影響力のある大手の投資会社や生命保険会社なども、全投資の判断にこのESGの考え方を採用すると発表し大きな話題になりました。
独自に作成した評価基準を用いて、経営の透明性や持続可能性の高い企業などへの投資を増やすことで、利回り向上とリスク低減を目指していく考え方です。
日本ではこれまで、欧米などに比べてESG投資の規模は小さかったですが、今後はこのような動きが進み、急拡大する可能性があります。
また投資会社が投資先の企業とESGの取り組みについて対話をおこなうことも予定されています。例えば、温室効果ガス排出量の多い企業に対しては、気候変動に伴う経営上のリスクや排出量削減に向けた取り組みを開示するよう求め、
また取り組みに改善が見られない場合は、保有する株式や社債を売却することも検討することもあるようです。
世界的に大きな運用額を持つファンドもESG投資を採用しているところも多くなってきており、株価など商品の価値に対する影響力も高まっています。
<ESG投資の考え方と戦略>
ESG投資はどのような戦略をもって銘柄選定していくのか、7種類の投資手法があります。各手法の考え方をご紹介していきます。
・ネガティブ・スクーリニング
ESG投資の考え方の中では歴史的に古くからある手法であり、基準となる戦略であり世界で広く普及しています。
兵器や武器、ギャンブル、たばこ、お酒、原子力発電、ポルノなど、倫理的ではないと定義される事業を展開し、収益を上げている企業を投資先から除外する考え方です。
・ポジティブ・スクリーニング
同じ業界の中でESG関連のスコアと評価が高い企業に投資する考え方です。
環境保護や人権、従業員対策、企業統治などに対して、積極的な企業を選んで投資します。中長期的に見てESG評価の高い企業ほど企業業績も良好であるということを前提にした手法です。
・国際規範に基づくスクリーニング
ESGに関しての国際基準に基づいて、基準を達成していない企業を投資先から除外する考え方です。環境問題や人権問題への取り組みに消極的な企業、汚職事件などの問題に関与している企業を投資先から外すことで、国際社会の規則を守っている企業のみを投資先とする手法です。
・ESG統合型
従来の財務情報での投資判断だけでなく、ESGなどの非財務情報も含めて投資判断する手法です。
・サステナビリティテーマ投資
再生可能エネルギー事業、持続可能な農業に関する事業に対して投資する考え方です。具体的には、太陽光発電、バイオマス発電、グリーンボンド(環境改善事業)などが当てはまります。ESGに関連するテーマを選びポートフォリオを作る手法です。
・インパクト投資
環境や社会に貢献するサービスや技術を展開する企業を投資対象にし、投資での収益だけでなく、社会的な問題を解決することにより、投資を通じてよりよい社会を実現する考え方です。投資先は企業規模が小さいことが多く、ファンドへの投資を取る場合が多いです。
・エンゲージメント議決権行使
投資の際、ESGの課題に対して株主議決権を行使し、企業側に改善や変化を提案する投資手法です。投資先企業へのインタビューなどを通じて企業価値を高めていく考え方で、こうした株主の行動は「アクティピスト」「物言う株主」と呼ばれています。
<SDGsとESGの関係とは?>
ESGに加えて、SDGs(エスディージーズ)という言葉も最近は頻繁に耳にすると思います。
SDGsとは「Sustainable Development Goals」の略で、「持続可能な開発目標」と訳されます。
SDGsは2015年の国連サミットで採択され、193の国連加盟国が持続可能なより良い世界を2030年までに目指すという国際目標です。
17のゴールと169のターゲットから構成され,印象的でカラフルなタイルを見たことがある人も多いと思います。
最近はESG評価を高めるために、SDGsに積極的に関わる企業が増加しています。
SDGsはESGに比べて、より具体的な目標と2030年までに達成するという時間的な目標もあり、企業として取り組みやすく、社会に開示することにより企業価値を高めることができるメリットもあります。
投資家は企業の将来性に対し投資している側面もあり、その企業の中・長期的なビジョンや目標を知りたいと思うため、SDGsへの取り組みを開示する企業は投資対象としても価値が高まります。
企業が積極的にSDGsに取り組むことにより、社会や環境問題への良い影響が生まれ、企業の価値が上がれば投資家も長期的な利益を得ることができ、とても良いサイクルになります。
<不動産投資とESG>
不動産投資は基本的には中長期の投資であることから、その事業者はESGに関して積極的に取り組むことで、企業価値や所有する物件の価値を長期的に高めることができるため、不動産投資とESGはマッチング度が高いと言えます。
不動産の収益を上げるためには、自然災害などから建物を守り、入居者に対してより良い生活空間を提供することが重要視されます。
このことからもESGに配慮することで、入居者やオーナー、投資家や株主からの評価が上がり、物件自体の価値の向上にもつながります。
ESGやSDGsに対しての取り組みが積極的な事業者の物件は、その不動産価値も長期的に安定した価値を生み出し、投資家にとっても利益につながり、投資対象にしやすいと言えます。
<SDGs、ESG投資の今後について>
将来的にはますますSDGsやESGへの取り組み方が企業を評価する指標となっていくと考えられます。企業はただ利益をあげればいいと言う時代は終わり、いかに環境や社会に貢献しているかという点も企業の価値を計る重要な指標になります。
差別やハラスメントがない働きやすい職場環境を作れば、優秀な人材が集まり、安定した雇用体系が作れます。また効率が上がり、売り上げも上がるでしょう。
投資家は時代の変化に柔軟に対応できる人の方が利益を上げられる可能性が高いです。マーケットは常に新しい情報を織り込んで価格決定されているからです。
ESG投資やSDGsの考えを正しく理解し、ESG評価が高い企業に投資することは、長期的な利益を得ることだけでなく、環境問題やより良い社会を目指すことへの貢献にもつながります。
今後、投資商品を販売する事業者は、商品そのものの魅力とESGなどの社会性を両立した商品を組成することが求められる時代になります。
投資家も投資対象を考える際は、財務情報だけの投資判断だけではなく、ESG投資やSDGsの観点から社会貢献につながる投資対象を選定することは時代に合った投資戦略のひとつだと思います。
投資の最大の目的は利益を得ることだと思いますが、地球環境の保全や平等で差別のないより良い社会の実現に、ESG投資を通じて社会貢献する目的もあります。
今後、投資判断の材料にESG投資の視点も加えてみてはいかがでしょう?